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PTSDの治療

PTSDの治療

これまでの研究から、トラウマに焦点を当てた心理療法と薬物療法の両方が、PTSDの治療に有効であることが示されています。
治療によって、症状が治癒・軽快する可能性があり、PTSDが日常生活や人間関係に与えていた影響が軽減できる可能性があります。

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推奨される治療法

PTSDに対してどのような治療法が推奨できるかは、いくつかの機関が発行している「治療ガイドライン」 で知ることができます。
2025年2月現在では、トラウマに焦点を当てた心理療法と薬物療法の両方が、PTSDの治療に有効であることが示されています。心理療法と薬物療法は、併用することもあります。トラウマに焦点を当てた心理療法(CPT、PE、EMDRなど)では、それぞれの治療に特徴的な技法を用いてトラウマとなる出来事の記憶やその意味に焦点を当てていきます。よく効くけれども治療を途中でやめてしまう人の割合が高いなど、課題もあることから、より良い治療法を開発するための研究が続けられています

  • 薬物療法
  • CPT
  • PE
  • EMDR
  • その他の治療
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PTSDに対する薬物療法

治療の概要 ~PTSDへの薬物療法の位置づけ~

PTSDに対する主要な治療法には、心理療法に加え、薬物療法があります。国際的に影響力を持つ複数のPTSD治療ガイドラインでは、いずれもトラウマに焦点化した心理療法を第一推奨治療としていますが、そのうち一部のガイドラインは心理療法と並んで薬物療法を第一推奨に挙げています。PTSDへの薬物療法の適用について、日本トラウマティック・ストレス学会により以下の指針が示されています。
少なくとも1ヶ月(急性期において)、目立った改善がないまま症状が持続している場合、
1)心理治療を施すか、専門家を紹介する。
2)以下の場合には薬剤を処方する。
 ・症状が重症かつ/または持続的
 ・日常生活の障害が深刻
 ・重症の不眠
 ・他の精神医学的問題がある(うつ、不安、自殺念慮など)
 ・現在も多くのストレスを経験している
 ・すでに精神療法を受けているが、なお症状が顕著

どのように作用するか

PTSDでは、ストレスへの反応を調整する脳の働きが変化している可能性が示されています。PTSDに保険適用のあるparoxetineとsertralineなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)、またvenlafaxineなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor: SNRI)は、神経伝達物質と呼ばれる脳内化学物質のバランスを調整することで、PTSDの症状を改善すると考えられています。

期待される効果

薬物療法開始にあたっては、薬剤を一剤選び、少量から服用を始めます。有害事象発現の有無を確認しつつ、投与可能な最大量まで増量します。服用を始めて約4~6週間で良くなってくることが期待されますが、変化があらわれる期間には個人差があります。効果を持続させるためには、薬を飲み続ける必要があります。寛解後、維持療法として投与を1 年間継続すると再発防止作用があることが報告されています。

リスクや負担

SSRIやSNRIを服用することで、胃の不快感、頭痛、めまいなどの副作用が、軽度から中等度の強さで生じる可能性があります。そういった副作用は一過的なもののこともありますが、薬を服用している限り続くものもあります。これらの薬剤の急激な増量は賦活症候群を、急激な減量は離脱症候群を起こす可能性があるため、用量調節の際には注意が必要です。

監修:堀弘明

CPT:認知処理療法

CPT(Cognitive Processing Therapy)は、Rescik博士らによって開発された、認知行動療法の1つです。PTSD治療に特化したプロトコルで、12セッションで構成されます。治療提供者と一対一で行う個人セッションのほか、1、2名の治療提供者とPTSDを患っている人が集まり6~10名ほどのグループで行うこともできます。通常は、1回60分(個人)から90分(集団)のセッションを、週に1か2回、行います。
CPTではまず、治療の概要や理論を学んだ後、トラウマ体験が生活に与えた影響をふり返ります。次の数セッションで、トラウマについて抱いていた考えを話したり、ワークシートを使った見直しを行いながら、これまでとは異なる視点で考える試みをします。終盤には、トラウマによって影響を受けやすい5つのテーマに焦点を当てて、新たな考えを生み出す力を育みます。

どのように作用するか

トラウマは、自分自身や世界に対する考え方を変えてしまうことがあります。起こったことは自分のせいだと思ったり、世界は危険な場所だと思ったりするかもしれません。このような考え方は、PTSDから抜け出せず、以前楽しめていたことを逃してしまう原因になります。
CPTでは、このような考えに対処する新しい方法を学びます。自分の「考えていること」と「実際に起こったこと」を見比べながら、これまでとは異なる視点で出来事を捉えることで、自然な感情の働きを取り戻し、自分自身や世界に対する見方をより現実的で実際的なものにしていきます。

期待される効果

国際トラウマティックストレス学会のガイドラインをはじめとして、複数の治療ガイドラインで、PTSD治療の第一選択の一つに挙げられています。 CPTでは、トラウマ体験によって動揺した「考え」に焦点を当て、PTSDからの回復に役立つ新たな見方を身につけます。治療提供者との話し合いや自ら行う考え直しのワークを通じて、怒りや悲しみ、罪悪感などの感情に対処できるようになります。
原則として12回のセッションで構成されますが、数回のセッションで気分が良くなる人もいます。CPTの効果は、最終セッションの後も長く続くことがよくあります。

リスクや負担

トラウマに関連した記憶や信念について話したり書いたりするときに、軽度から中等度の不快感を経験します。このような感覚が生じるのは通常は短い期間であり、CPTを続けているうちに気分がよくなる傾向にあります。
セッションでは毎回、自宅で行う課題が出され、それに取り組む必要があります。課題の内容は、体験した出来事があなたにどんな影響を与えたかを振り返るものや、治療の中で学んだスキルを練習するものです。

PE:持続エクスポージャー療法

PE(Prolonged Exposure)は、Foa博士によって開発された、PTSDに特化した認知行動療法の1つです。通常は週に1回、計8~15回のセッションを行います。1回1時間半のセッションを、治療提供者と一対一で行います。
PEではまず、治療の概要を説明し、あなたの過去の経験について詳しく知ることから始めます。また、不安に対処するための呼吸法を学びます。続いて、治療提供者と一緒に、トラウマ以来遠ざかっている人や場所、活動等のリストを作ります。リストをもとに、避けてきた状況や対象にくり返し接したり、トラウマの詳細を治療提供者と話し合ったりします。そうすることで、次第に不快感が和らぎ、トラウマに関わるものを避ける必要がなくなっていきます。

どのように作用するか

PTSDを患った人が、トラウマを思い出させるものを避けようとすることはよくあります。これは、その場では気持ちを楽にするのに役立ちますが、長期的には、PTSDの症状を長引かせてしまいます。
PEは、あなたが恐怖に直面するのを助けることによって作用します。トラウマの詳細を話したり、避けてきた安全な状況に直面したりすることで、強い感情に慣れが生じ、感じ方に変化が起こります。そして、PTSDの症状が軽減し、自分の人生をよりよくコントロールできるようになります。

期待される効果

世界の多くのガイドラインで、PTSDの治療の第一選択肢として挙げられます。トラウマについて話すことで、恐怖、怒り、悲しみなどの感情を和らげることができます。治療の中でトラウマの体験と向き合うことで、治療外の時間に嫌な記憶が割って入ってくることが少なくなります。
数回のセッションで、気分が改善する人もいます。PEの効果は、最終セッションの後も長く続くことがよくあります。

リスクや負担

新しい活動に参加するときや、トラウマに関連した記憶について話すときに、軽度から中等度の不快感を経験します。このような感覚が生じるのは通常は短い期間であり、PEを続けているうちに気分がよくなる傾向にあります。
治療中は、日常生活で行う課題が出され、それに取り組む必要があります。課題の内容は、セッション中でトラウマについて話したものを録音し、それを自宅で聞くことや、トラウマ体験以来避けてきた活動に取り組むことなどです。

監修:井野敬子

EMDR:眼球運動による脱感作と再処理法

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、Shapiro博士によって開発された、PTSDの心理療法です。治療提供者と一対一で行う個人療法で、 週1回、50~90分のセッションを継続的に行い、治療期間は、トラウマの時期や数によって左右されます。
EMDRではまず、トラウマや資源記憶の役割について学びます。治療に取り組む準備として、セルフコントロールの方法を学んだ後、治療の中で焦点を当てる記憶を特定します。その記憶を心に留めながら、水平方向の左右の眼球運動や音や触覚刺激(治療提供者が動かす指、点滅する光、片耳ずつ鳴る音など)にも注意を向け、自由な連想に従います。最終的には、トラウマの記憶を心に留めながらも、苦痛は和らぎ、肯定的な考えや感情、身体感覚が感じられるようになります。

どのように作用するか

トラウマの後、PTSDの人はしばしば自分の身に起こったことの否定的な側面のみに注意が向きがちです。EMDRでは、トラウマの記憶を思い浮かべながら、水平方向の左右の眼球運動や音や触覚刺激に注意を払うことで、その記憶を経験する方法に変化を起こします。効き目を生み出すメカニズムは十分には明らかになっていませんが、REM睡眠と同じようなメカニズムが働くのではないかと言われています。EMDRがトラウマに関連する動揺した映像、思考、感情、身体感覚を処理するのに役立ち、PTSDの症状を軽快させることが知られています。

期待される効果

世界の多くのガイドラインで、PTSDの治療の第一選択肢として挙げられています。
多くの人は数回のセッションで症状の改善に気づきます。EMDRの効果は、最終セッションの後も長く続くことが知られています。

リスクや負担

トラウマに関連した記憶や考えに焦点を当てるとき、不快感を感じることがあります。このような感覚が生じるのは通常は短い時間であり、EMDRを続けているうちに気分がよくなる傾向にあります。トラウマを扱う前に、充分な準備が必要な人もいますので、経験を積んだ治療者から治療を受けることは重要です。
PTSDに対する他の心理療法のような自宅で取り組む課題はなく、比較的短期的な治療であるため、治療を受ける側にとっての負担は少なめです。

さらに詳しく知りたい方はこちら:日本EMDR学会

監修:市井雅哉

その他の治療

PTSDの治療法には他にも多くの種類があり、その中には、PTSDに効果があるかどうかを確かめるための研究が継続して行われているものがいくつもあります。最新の情報を知りたい場合は、新しく発表される論文等の情報を集めるのが役立ちますし、証拠の蓄積に基づき各治療法がどれくらい推奨されているのかを知りたい場合は、学会等が発行するガイドラインが役立ちます。
ここでは、先に挙げた4つ以外にも、よく知られた方法をいくつか挙げ、概略をお示しします。

TF-CBT トラウマフォーカスト認知行動療法

TF-CBT( (Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy)は、Deblinger博士らにより開発された、3〜18歳の子どものトラウマに焦点化した認知行動療法です。いくつかの治療ガイドラインにおいて、子どものトラウマ治療の第一選択として推奨されているプログラムです。週1回、1回は60〜90分をかけて行われ、8〜16週で構成されます。子どもと養育者が、トラウマ体験の記憶を適切に処理し、トラウマに関連する考えや感情、不適応的な行動を、うまく調整できるようになることを目指します。子どもだけで行うセッション、養育者だけで行うセッション、親子合同のセッションから構成され、その中で、感情調整や関わりのスキルをはじめとした、さまざまな知識とスキルを身につけます。TF-CBTは、子どものPTSD症状だけでなく、トラウマに関連したうつや不安症状、行動上の問題、恥や罪悪感といった感情、社会生活能力などの回復が期待できるほか、養育者の抑うつやPTSD症状、養育能力や子どものサポート機能の向上にも効果を発揮します。

さらに詳しく知りたい方はこちら:TF-CBT LC研究会

監修:亀岡智美

STAIR Narrative Therapy

STAIR Narrative Therapyは、複雑性PTSDに対する効果が期待される心理療法です。複雑性PTSDは、国際疾病分類第11版(ICD-11)で新たに採用された診断項目ですが、持続的な虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症することが多く、PTSDの主要な症状(侵入症状、回避症状、脅威の感覚)に加えて、感情の調整や対人関係に困難があるなどの症状を伴うことを特徴とします。通常のPTSDに比べて、日常生活や社会生活の支障がより大きく、併存疾患も多いことがわかっています。Cloitre博士らが開発したSTAIR Narrative Therapyは、現在の感情調整や対人関係の困難さに対処するスキルトレーニング(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation; STAIR)とトラウマに焦点を当てた治療(Narrative Therapy)を組み合わせた治療法で、複数のランダム化比較試験によって安全性と有効性が報告されています。治療は週1回60分で、18回で構成されていますが、個人に合わせた柔軟な適用が可能です。STAIR Narrative Therapyでは複雑性PTSDの多様な症状に直接取り組み、PTSD症状軽減に加え、感情調整や対人関係スキルを培うことによって、日常生活や社会生活の機能を改善することを目指します。

監修:丹羽まどか

WET:筆記エクスポージャー療法

WET(Written Exposure Therapy) は、Sloan博士らによって開発された、筆記を中心としたPTSDのための心理療法です。トラウマ体験やそれにまつわり考えたことや感じたことを文章にすることで、PTSDの症状の緩和を図ります。WETは、通常週に1回実施し、初回セッションは60分間、2回目以降のセッションは各40〜45分間を要します。WETは全5回で構成され、セッション間の宿題は課されません。
最初のセッションでは、PTSDの症状やトラウマに対する一般的な反応について学びます。その後、治療提供者が筆記の方法を伝え、自分のトラウマについて書く課題に30分間取り組みます。残りの回のセッションでも、30分間の筆記を行い、完成後に治療提供者にトラウマについて書いた体験について感想を話します。トラウマ記憶に向き合うことが治療が進むにつれて容易になり、PTSDの症状の軽減につながります。
現在のところ、WETに関する研究は、CPTやPE、EMDRなど他のトラウマに焦点を当てた心理療法を支持する研究ほど多くはありませんが、効果を検証した研究ではPTSD症状の軽減に効果的であることが示されています。また、症状の改善に要するセッション数が他の治療法よりも少なく、治療を最後までやり遂げられる人の割合が高いことが特徴です。

監修:伊藤愛