TF-CBT トラウマフォーカスト認知行動療法
TF-CBT( (Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy)は、Deblinger博士らにより開発された、3〜18歳の子どものトラウマに焦点化した認知行動療法です。いくつかの治療ガイドラインにおいて、子どものトラウマ治療の第一選択として推奨されているプログラムです。週1回、1回は60〜90分をかけて行われ、8〜16週で構成されます。子どもと養育者が、トラウマ体験の記憶を適切に処理し、トラウマに関連する考えや感情、不適応的な行動を、うまく調整できるようになることを目指します。子どもだけで行うセッション、養育者だけで行うセッション、親子合同のセッションから構成され、その中で、感情調整や関わりのスキルをはじめとした、さまざまな知識とスキルを身につけます。TF-CBTは、子どものPTSD症状だけでなく、トラウマに関連したうつや不安症状、行動上の問題、恥や罪悪感といった感情、社会生活能力などの回復が期待できるほか、養育者の抑うつやPTSD症状、養育能力や子どものサポート機能の向上にも効果を発揮します。
さらに詳しく知りたい方はこちら:TF-CBT LC研究会
監修:亀岡智美
STAIR Narrative Therapy
STAIR Narrative Therapyは、複雑性PTSDに対する効果が期待される心理療法です。複雑性PTSDは、国際疾病分類第11版(ICD-11)で新たに採用された診断項目ですが、持続的な虐待やドメスティック・バイオレンスなどのトラウマ体験をきっかけとして発症することが多く、PTSDの主要な症状(侵入症状、回避症状、脅威の感覚)に加えて、感情の調整や対人関係に困難があるなどの症状を伴うことを特徴とします。通常のPTSDに比べて、日常生活や社会生活の支障がより大きく、併存疾患も多いことがわかっています。Cloitre博士らが開発したSTAIR Narrative Therapyは、現在の感情調整や対人関係の困難さに対処するスキルトレーニング(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation; STAIR)とトラウマに焦点を当てた治療(Narrative Therapy)を組み合わせた治療法で、複数のランダム化比較試験によって安全性と有効性が報告されています。治療は週1回60分で、18回で構成されていますが、個人に合わせた柔軟な適用が可能です。STAIR Narrative Therapyでは複雑性PTSDの多様な症状に直接取り組み、PTSD症状軽減に加え、感情調整や対人関係スキルを培うことによって、日常生活や社会生活の機能を改善することを目指します。
監修:丹羽まどか
WET:筆記エクスポージャー療法
WET(Written Exposure Therapy) は、Sloan博士らによって開発された、筆記を中心としたPTSDのための心理療法です。トラウマ体験やそれにまつわり考えたことや感じたことを文章にすることで、PTSDの症状の緩和を図ります。WETは、通常週に1回実施し、初回セッションは60分間、2回目以降のセッションは各40〜45分間を要します。WETは全5回で構成され、セッション間の宿題は課されません。
最初のセッションでは、PTSDの症状やトラウマに対する一般的な反応について学びます。その後、治療提供者が筆記の方法を伝え、自分のトラウマについて書く課題に30分間取り組みます。残りの回のセッションでも、30分間の筆記を行い、完成後に治療提供者にトラウマについて書いた体験について感想を話します。トラウマ記憶に向き合うことが治療が進むにつれて容易になり、PTSDの症状の軽減につながります。
現在のところ、WETに関する研究は、CPTやPE、EMDRなど他のトラウマに焦点を当てた心理療法を支持する研究ほど多くはありませんが、効果を検証した研究ではPTSD症状の軽減に効果的であることが示されています。また、症状の改善に要するセッション数が他の治療法よりも少なく、治療を最後までやり遂げられる人の割合が高いことが特徴です。
監修:伊藤愛