Step5:5つのテーマに取り組む
「どうしてこんな出来事が起こったのか」をふり返り、バランスの取れた見方を手に入れたら、治療の仕上げとして、トラウマ体験によって影響を受けやすい5つのテーマについて1つ1つ見直していきます。出来事を体験したことで、自分や他者、世界の見方がどう変化したかに目を向け、 PTSDから回復した生活の準備を整えます。
CPTでは、トラウマとなる出来事によって混乱しやすい5つのテーマを取り上げて、見直していきます。「安全」「信頼」「力とコントロール」「価値」「親密さ」について、順にふり返りながら、トラウマ体験を乗り越えて生きる生活の指針を自ら作っていきます。
安全のテーマ
トラウマティックな出来事が起こった時、安全ではない状態に置かれたという事実が、考え方の変化をもたらします。同じような出来事を体験したり、別の悪いことが起こる確率を、かなり高く見積もるようになります。
悪いことが一度起こったという事実は、信じられないほど痛ましいことですが、同じことが再び起こる確率自体が高まるわけではありません。CPTでは、そうした事実を思い出し、出来事が起きる可能性を冷静に見積もっていきます。
信頼のテーマ
信頼していた人に傷つけられたり裏切られたりした場合、自分の判断を信じられなくなったり、「誰も信用できない」と考えるようになるかもしれません。
「信頼」とはそもそもどのようなものかを学び、相手についての情報を集めながら、種類(どういう側面についての信頼か)と、程度(「信じられる」「信じられない」の2択ではなく、「どれくらい信じられるか」という連続線上のどのあたりに位置付けられるか)で判断していく習慣を身につけます。
力とコントロールのテーマ
一生懸命に働き「正しい」ことをすれば、人生はうまく行くと信じられてきた場合、出来事が起こるのを防げなかった経験から、うまくコントロールできなかった自分を責めたり、反対に「何をしても無駄」と考えるようになることがあります。
私たちは、自分自身の言動はコントロールできますが、他人の行動や反応はコントロールできませんし、自然災害やすべての事故を防ぐこともできません。すべてをコントロールできるわけではないという事実を受け入れ、コントロールできることとできないこと、そしてそれが自分にとって何を意味するのかを現実的に理解していきます。
価値のテーマ
出来事の最中に経験したことやその体験の意味づけによって、自分や他者の価値が損なわれたように感じ、自分を「幸せになる資格がない」「自分は悪い/弱い人間だ」と考えたり、他の人について「世の中の○○は全員悪い/無価値だ」と考えるようになることがあります。
世の中には、善い人もいれば悪い人もいます。一人の人の中に長所も短所もあります。自分に自信を持てる部分もあれば、これから改善していきたい部分も見つかるかもしれません。そういった一つ一つに向き合い、人生のなかで自分自身をどう扱い、他の人とどのように関わっていくかを考えていきます。
親密さのテーマ
親密さとは、対象に親しみを持ち近しく感じる感覚を意味します。トラウマ体験により、他者との関わり方が変化し、「親しくなると傷つけられる」「誰も受け入れてくれない」と考えるようになり、友人関係や親しい関係から距離を置きたくなるかもしれません。出来事について自分を責め、自分に優しくなれない人もいます。
考え直しを進める中での目標は、自分自身でいることを許し、ありのままの自分を受け入れることです。そして、自分自身を癒しケアする能力を取り戻すとともに、他者があなたを大事にしてくれる相手かを見分け、ちょうどよい距離を探っていきます。
CPTを終えて、前に進む
CPTのすべての課題を終えたら、「どうしてこんな出来事が起こったのか」「出来事が自分・他者・世界についての見方にどのような影響を与えたか」について、今改めて、どう考えているかをふり返ります。CPTをはじめた頃と比べて変化したことを確認し、まだ残っているスタックポイントを整理します。
CPTを終えたからといって、生活上のすべての課題が解決するわけではありません。しかし、自分の力で出来事に向き合い、自然な感情をとり戻し、バランスの取れた見方で物事を捉える力を手に入れた経験は、これから先の人生を歩むにあたっての糧になります。