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コラム

自然な感情と作られた感情

ここには、当サイトの本編では十分にお伝えしきれなかったことや、トラウマやPTSDの理解に役立つ関連情報をお伝えしていきます。
あなたの関心に合うものが見つかったら、幸いです。

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自然な感情と作られた感情

トラウマとなるような出来事を体験すると、心の中にはさまざまな感情があふれてきます。実はその感情には、大きく分けて2種類あると言われています。それが「自然な感情」と「作られた感情」です。

自然な感情とは

自然な感情とは、ショックな出来事が起こった直後に湧き上がる感情です。これは、誰もが持つごく自然な反応です。
たとえば、危険に直面したときの恐怖、理不尽に傷つけられたときの怒り、大切な人を失ったときの深い悲しみ、そして逆に良いことがあったときの喜びや幸福感などが挙げられます。
これらの感情には、時間の流れとともにゆるやかに変化していく特徴があります。強い悲しみや怒りも、永遠に同じ強さで続くことはありません。波のように寄せては返すうちに、少しずつやわらぎ、やがて消えていきます。回復の過程において大切なのは、この「自然な感情」をそのまま感じることです。無理に抑えたり避けたりすると、心の中に残り続けてしまい、自然に和らいでいくはずの感情がなかなか薄れていかないことがあります。

作られた感情とは

一方で、少し時間が経つと、私たちは「どうして自分にこんな出来事が起こったのだろう」と考え始めます。理由を探すこと自体は自然なことですが、そのときに事実とは異なる思い込みや誤解が入り込むことがあります。
たとえば、「自分が悪かったに違いない」「もっと注意していれば防げたはずだ」「立ち直れない自分は弱い」といった考えが浮かぶことがあります。実際には根拠がなくても、自分の頭の中で繰り返し考えるうちに、それが「真実」のように感じられてしまうのです。
そして、その考えに基づいて生まれる感情――罪悪感や自己嫌悪、必要以上の不安や怒り――これが「作られた感情」です。つまり、「自然な感情」が出来事そのものから直接生まれるのに対し、「作られた感情」は自分の解釈や思い込みから生まれる感情なのです。

例を挙げると…

たとえば、スピード違反の車にはねられたとします。危険にさらされた瞬間に恐怖を感じたり、その出来事を思い出して悲しみを覚えたりするのは「自然な感情」です。
けれども、「もっと早く気づいていれば避けられたのに」「立ち直れない自分は駄目だ」といった考えが浮かぶと、それは罪悪感や自分への怒りにつながります。これらは出来事そのものではなく、自分の解釈から生まれた「作られた感情」といえるでしょう。
考えが繰り返されるほど、「作られた感情」は強まっていきます。しかし逆に、考え方が変われば、そこから生まれる感情も変わっていきます。

認知処理療法で大切にしていること

認知処理療法では、「自然な感情」をしっかり感じることを大切にしつつ、「作られた感情」を生み出している考えが本当に事実に基づいているのかを確かめていきます。自分を責める思考や誤った思い込みに気づき、それを修正していくことで、感情も次第にやわらいでいくのです。
つまり、心の中で何が起こっているのかを丁寧に整理することによって、自然な回復の力を取り戻していきます。

ちょっと振り返ってみませんか

あなたはトラウマ体験のあと、どのような感情が出てきましたか。悲しみや恐怖、怒り、安堵・・・いろいろな感情が入り混じっているかもしれません。
「感情を出すのが苦手」「今の自分の感情がよく分からない」という方も多くいます。そのようなときは、“感情をみつける”などを参考にしながら、「自分はいま、どんな気持ちを抱いているのだろう」と静かに探してみるのも一つの方法です。
認知処理療法は、自分に起こった出来事の真実を丁寧に振り返る中で「自然な感情」を導き出し、同時に「作られた感情」を見つめ直す手助けをします。感情を理解し直すことは、回復への大切な一歩になるのです。

文:片柳章子