コラム
ここには、当サイトの本編では十分にお伝えしきれなかったことや、トラウマやPTSDの理解に役立つ関連情報をお伝えしていきます。
あなたの関心に合うものが見つかったら、幸いです。
公正世界の信念
「よいことはよい人に起こり、悪いことは悪い人に起こる」―みなさんはこのフレーズを聞いたことはありますか? これは、『公正世界の信念』と呼ばれる、多くの人が成長する過程で学ぶ考え方の一つです。
公正世界の信念とは?
「いい子にしていればサンタさんがプレゼントくれるよ」「嘘をつくと閻魔(えんま)様に舌を抜かれるよ」。このようなことを、しつけの過程で親や学校の先生から言われて私たちは育ってきました。「注意して青信号を渡れば安全かもしれないし、安全じゃないかもしれない」「宿題をやらないと怒られるかもしれないし、怒られないかもしれない」。子供の頃、そのように言われた人はほとんどいないでしょう。また、子供に人気のアニメでは、いつでもヒーローやヒロインなどの正義が勝ち、悪役の敵は打ち負かされます。そのため、私たちは自然と「よいことはよい人に起こり、悪いことは悪い人に起こる」、「よいことをするとよい結果が返ってくる、悪いことをすると悪い結果が返ってくる」という考え方を身につけていきます。これが『公正世界の信念』の考え方です。
公正世界の信念のメリット
なぜこのような公正世界の信念の考え方が生じ、これまで受け継がれてきたのでしょうか。例えば、「努力は報われる」と信じることで私たちは努力ができます。また、「気を付けていれば事故や犯罪にあわない」と信じることで精神的な不安を和らげることができます。このように、公正世界の信念を信じることで私たちはやる気を出したり不安を減らしたりしているのです。
現実世界で公正世界の信念が当てはまらないこと
しかし、大人になる過程でさまざまな経験をし、「よい人にも悪いことは起こるし、悪い人にもよいことが起こる」ことがあるということを学んでいきます。いじめられているクラスメイトを助けたら自分がいじめられた、テストでカンニングをしていい成績をとった、交通ルールを守って安全運転をしていたのに対向車線から車が突っ込んできて交通事故にあった―これらはすべて公正世界の信念「よいことはよい人に起こり、悪いことは悪い人に起こる」から外れた出来事です。
トラウマを経験したとき、公正世界の信念はどう関係する?
PTSDにつながるトラウマを経験すると、この公正世界の信念が大きく揺らぎます。「よいことはよい人に起こる、悪いことは悪い人に起こる」という信念を持っていた人は、「こんなに悪いことが起きたのは、私が悪いからだ」と考えるようになります。また、もともと持っていた考えを極端に変えて、「世の中は危険だ。悪い人ばかりなので誰も信じられない」と考えるようになります。この考えが強まると、「自分は罰せられるべきだ」「世界は危険で不公平だ」という認識になり、罪悪感、自責、不信感、回避行動などが強まりとても苦しい状況に陥ってしまいます。
CPTでの公正世界の信念の考え方
CPTでは、もともと持っていた信念を一部修正し、事実に基づいてバランスよく捉え考えていく練習をします。この練習を続けていくと、「世の中は危険なこともあるけれど、いつも危険なわけではない。信じられない人もいたけど、信じられる人もいるから大丈夫」といったほどよい現実に沿った考え方ができるようになっていきます。これがPTSDからの回復の大きな一歩となっていきます。
文:伊藤愛