コラム

ここには、当サイトの本編では十分にお伝えしきれなかったことや、トラウマやPTSDの理解に役立つ関連情報をお伝えしていきます。
あなたの関心に合うものが見つかったら、幸いです。
スタックポイント

トラウマというとても衝撃的な出来事を体験すると、世界や自分のとらえ方が一変します。「自分とはどういう人間か」、「世界はどういう場所か」、「この先の将来の人生はどうなっていくか」、といった点で否定的にしか考えられなくなることがあります。たとえば、「自分がいけなかったにちがいない」、「世界はとても危険だ」、「もう誰も信じることができない」、「気を許したら裏切られる」、「自分は汚れた存在だ」といった考えです。こうした“考え”は、“見方”、“とらえ方”、“思考”、“解釈”、“認知”などとも言われます。
認知処理療法では、こうした考えのうち、つらい感情につながったり、生活の幅を制限させる考えのことを『スタックポイント』と呼んでいます。たとえば、「自分がいけなかった」と考えて、罪悪感や落ち込みといったつらい感情が出てきます。あるいは、「世界はとても危険だ」と考えて、一歩も外出しなくなったり、誰とも連絡を取らなくなったりするなどの行動面に影響するかもしれません。
スタックポイントは、英語ではStuckと、Pointという2つの単語にわけられます。Stuckは「つっかえる」「足止めされる」「はまり込んで動けない」といった意味です。Pointは「ポイント」、「点」、「場所」などを意味します。すなわち、「はまり込んで動けなくなっている場所」がスタックポイントの意味です。
スタックポイントは、思考の面でのはまり込みと、行動面でのはまり込みがあります。思考面でのスタックは、「そのせいで柔軟に考えられなくなって、どうしてもそう考えるしかなくなってしまうような考え」という側面です。行動面でのはまり込みは、そう考えることで生活上での行動が制限されてしまうという側面です(例:世界を危険だと考えて、外出しない)。
いつの間にか、ネガティブにしか考えられなくなる。そうしたスタックポイントを見つけると、「自分がどこで引っかかって止まってしまっているか」に気づけるようになります。はじめのうちは、このスタックポイントを見つけるのがむずかしいときもあります。それでも認知処理療法のなかで、出来事の意味筆記やABC用紙に取り組んだり、セラピストと話をしていくなかで、だんだんと浮き彫りになっていきます。
PTSDは、自然に回復するはずのこころが、その回復途中で止まってしまっている状態としても理解できます。回復を止めるスタックポイントを見つけられると、そこから、回復へと歩みだしていけることでしょう。
文:伊藤正哉