コラム

ここには、当サイトの本編では十分にお伝えしきれなかったことや、トラウマやPTSDの理解に役立つ関連情報をお伝えしていきます。
あなたの関心に合うものが見つかったら、幸いです。
自然な感情の意味
人が抱く感情には、「自然な感情」と「作られた感情」の2種類あります。「自然な感情」は、何か出来事が起きたときに誰もが自然に感じる基本的な感情です。たとえば、恐怖、不安、怒り、悲しみ、喜びなどがあります。「作られた感情」はその人の解釈や考えにより生み出される感情です。たとえば、罪悪感、恥、絶望感などがあります。
「作られた感情」は、時に、とても辛い出来事が起きたら皆が感じるような「自然な感情」が出てくるのを邪魔してしまいます。CPTでは、出来事の捉え方を見直すことで、「作られた感情」を解消し、「自然な感情」をそのままに感じられる状態を目指します。では、「自然な感情」を感じることがどうしてそんなに重要なのでしょうか? 今回のコラムでは、「自然な感情の意味」についてお話しします。
人の感情
人の感情には、うれしい、楽しいといったポジティブな感情と、悲しい、怒り、寂しいなどのネガティブな感情があります。多くの人は、ネガティブな感情は自分を苦しませるものであると考え、できるだけ感じないようにしたいと思ってしまいがちです。しかし、一見私たちに苦しみをもたらすネガティブな感情は、実際には、私たちに重要な情報を伝えてくれる大切なものなのです。感情がどのように大切で役立つのか、みていきましょう。
感情の種類と役割:恐怖

恐怖は、私たちが危険にさらされているときに、その危険から身を守る必要があると知らせてくれます。たとえば、暗い夜道をひとりで歩いているときに、自分の後を誰かがずっと付けてきたとします。ほとんどの人は恐怖を感じ、走って逃げたり、誰かに助けを求めたりするでしょう。この状況で恐怖という感情を持たなければ、そのままゆっくりと歩き続け、危険な目に遭うかもしれません。このように、恐怖という感情は、危険から身を守る重要な役割を果たしています。
感情の種類と役割:不安
不安はこれから先、「何か悪いこと」が起こりそうなときに生じる感情で、備えて準備するのに役立ちます。そして、ネガティブな結果を防ぐための行動を促してくれます。たとえば、大事な試験の前に不安を感じたとしたら、この試験が重要なものだと知らせてくれています。もし、試験の日が近づいても、全く不安を感じなかったとしたら、勉強する気も起きず、試験で失敗してしまうかもしれません。不安は一見不快な感情ですが、あなたを助けてくれる大切な役割があるのです。
感情の種類と役割:悲しみ

大切な人との別れ、やりがいのある仕事を失うなど、悲しみは大切なものや人を失ったときに生じる感情です。悲しみは私たちをいったん立ち止まらせ、喪失や挫折を整理する時間を与えてくれます。たとえば、大切な人を失った後に悲しみを感じることによって、その人との関係が自分にとっていかに大切なものであったかに気が付くことができ、喪に服して時間をかけながら気持ちを整理することができます。
感情の種類と役割:怒り

怒りは、自分や大切な人が不当な扱いを受けているととらえたときの感情です。この感情は、自分にとって大切な境界やなわばりが侵害されたことを私たちに知らせてくれます。たとえば、自分の畑に誰かが勝手に入ってきて大切に育てた野菜を全部持って行こうとしたら、多くの人は自然と怒りの感情が生じるでしょう。この状況での怒りは、公正ではないことが起こっていることを知らせてくれています。この怒りによって、あなたはその人を畑から追い出して自分のテリトリーを守ろうとするかもしれません。怒りは、怒鳴る、ものを壊すなどの破壊的な行動を伴うこともあります。しかし、怒りの行動と怒りの感情を分けてとらえることが重要です。怒りの感情は、自分自身を守る行動を起こす必要性を教えてくれる、とても大切なものです。しかし、怒りを感じたからといって、破壊的な行動をしなければならないわけではありません。
感情の種類と役割:ポジティブ感情

うれしい、楽しい、幸せといったポジティブ感情は、自分が人生において何を大切しているのか、人生における進む方向を私たちに教えてくれます。
すべての感情が大切
感情は生きる上で重要な役割を果たしています。人間は恐ろしい出来事、大切なものを失うこと、あるいは快いものに応じて自然な感情が起こるようにできています。これらの感情はどれも、自分を取り巻く状況や、その状況にどのように反応するかについて重要な情報を与えてくれます。ネガティブな感情をただ避けるのではなく、大切なことを教えてくれるものであると理解することで、感情と上手に付き合っていけるようになるでしょう。CPTでは自然な感情を感じることが、PTSD症状の改善にとってとても重要なポイントになります。
参考文献
- 堀越, 勝. (2015). 感情の「みかた」―つらい感情も、あなたの「味方」になります。 いきいき出版.
- Barlow, D. H. (2024). うつと不安への認知行動療法の統一プロトコル ワークブック (伊藤正哉, 加藤典子, 藤里紘子, & 堀越勝 監訳, 改訂第2版). 診断と治療社.
- Resick, P. A., Monson, C. M., & Chard, K. M. (2019). トラウマへの認知処理療法: 治療者のための包括手引き (伊藤正哉 & 堀越勝 監修). 創元社.
文:伊藤愛