コラム
ここには、当サイトの本編では十分にお伝えしきれなかったことや、トラウマやPTSDの理解に役立つ関連情報をお伝えしていきます。
あなたの関心に合うものが見つかったら、幸いです。
CPTを頻度の低い面接で届ける工夫
このサイトのテーマである「CPT(認知処理療法)」は、PTSDの治療法の一つとして、これまで多くの研究で効果が確かめられてきました。日本においても有効性が実証されています。ただし,研究で示されているのは,個人療法の場合は週1~2回、1回50~60分の面接をおよそ12回行った場合の効果です。
一方で,実際に心理支援を届ける現場では、このような枠組みを安定して確保するのが難しいことも少なくありません。「毎週の面接は難しく,不定期になる」「月に1~2回しか会えない」「1回30分程度しか時間が取れない」といった声は、支援の現場でよく耳にします。また、医療の中で,心理支援加算の枠組みの下でCPTを行うことはできるのだろうか、と悩まれる方も多いように感じます。今ある制度や条件の中で、CPTをどう届けていくかは、多くの実践者にとって身近で切実な課題だと思います。
こうした現状を踏まえて、CPTの開発者の一人であるPatricia A. Resick博士に、どうしたら良いか尋ねたことがあります。返ってきた答えは、とてもシンプルなものでした。「だから、セルフヘルプ本を作ったの」。
当サイトの「CPT資料集」でも紹介している『トラウマから自由になる――自分を取り戻すための認知処理療法』は、CPTの考え方を、日常生活の中で少しずつ試せるように構成されたワークブックです。ご自身でPTSDに向き合いたいと考えている方に向けて書かれた本ですが、心理支援の専門家が傍で支えながら、一緒に取り組む方法もあるように思います。
筆者自身、この本を使った実践はまだ始めたばかりなので,お役に立つか自信がないですが、現時点で意識しているポイントを共有させていただきます。
① CPTに「一緒に取り組む」約束をする
当サイトの「治療をはじめる前に」で紹介している通り,CPTに取り組んだ方が良いかどうかを一緒に確認して,この方法が良いとなったら,治療の進め方について話し合います。その際,同じ目標(PTSD症状を和らげること)に向かってお互いにどんなことをするのかを確認します。PTSDからの回復を目指す人は,ワークに取り組み、それを持って面接に来ること、支援者はCPTに関する知識や技術を用いて,その取り組みを支えること。そして、同じ方向を目指して共に役割を果たす約束をします。こうすることで,途中で難しさに直面したときにも、一緒にそれを乗り越えていける礎が築けます。専門的には「治療同盟」と呼ばれ、この関係がしっかり築かれていることが、CPTの効果を支える大切な要素であることも知られています。※
② 面接のあいだの時間を上手に使う
ワークブックは、基本的には自分で読み進め、書き込んでいくものです。支援者は,その取り組みを効果的に進めるサポートとなるよう,面接の時間を活用します。面接では、書き込まれた内容を一緒にふり返り,進捗を一緒に喜びます。うまく進まなかったところがあれば、その理由を丁寧に探ります。CPTの考え方が十分に伝わっていなければ補足しますし、考え方のつまずきがあれば対話を通して整理します。生活上の事情など、現実的なハードルがある場合には、無理なく取り組める工夫を一緒に考えます。そして、「次回までに何に取り組むか」を、現実的な見通しのもとで決めていきます。
③「パーソナル・トレーナー」として会う
面接の間隔が空く分,CPTのワークに取り組むペースや,どれくらい自分に正直に(向き合うのがしんどいところから目を逸らさずに)とり組むかは,ご本人に委ねられる部分が大きくなります。定期的に振り返る場があり、分からないことを気軽に聞ける相手がいることは、きっと支えになります。途中で立ち止まってしまったり、なかなか変化を感じられず不安になったりすることもあります。そうしたときに、支援者が話を丁寧に聴き、「何のためにこの取り組みをはじめたのか」を一緒に思い出したり、新しい見方に気づくきっかけを作ったりすることが、継続の力になります。一人では続けにくい取り組みも、誰かと一緒なら前に進めることがあります。
このように、いくつかの工夫を重ねることで、面接の回数が限られていても、それぞれのペースでCPTに取り組み、PTSDからの回復を目指すことはできると感じています。すぐには変えられない現実的な制約がある中でも、どんな選択肢があるのかを考えることは大切です。ここで紹介した工夫が、そのときの一つの手がかりになればうれしく思います。
参考文献
文:高岸百合子